Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

   “冬のお隣り”


一雨ごとに季節は移りゆきての深まって。
日に日に遅く昇って早くに落ちるよになる“お天道様”の恩恵、
陽だまりが降るのが とてもとてもありがたくなる。
雑木林は葉の落ちる樹も植わっており、
それらの梢が退いて出来た天井の穴は、
そこから陽が降りそそぐ、格好の陽だまり場となっており。

 「…んと、ひのふうのみぃ。取ったお?」
 「よ〜し。じゃあ俺はこれとこれ。ほれ、次。」

陽だまりだからかまだ緑の色合い残す下生えの上、
丸々としたドングリが幾つもばらばらと撒かれており。
その指では1つずつとて取りこぼすほどの小さなお手々が、
それでも うんしょうんしょと、つややかな木の実を摘まみ上げている。
何かしら決まりごとがあっての遊戯であるらしく、
ちょこなんと座った自分のお膝回りに取った分のドングリを置いて、
まだ木の実が居残っている“場”を、
潤みの強い双眸にてじぃと熱心に見やる幼子は。
四、五歳くらいの和子だろう姿をしておりながら、
甘い栗色の髪を引っつめに結った、真ん丸な頭の天辺近くに、
三角のお耳が一対、ぴょこりと飛び出しており。
柔らかそうな毛並みに覆われた小さなお耳は、
彼が実はとある精霊、
天からやって来ている“人ならぬ存在”である証しでもあったりし。
見た目そのままの年齢ならば、微妙にまだ履くには早いはずの袴のお尻からも、
一丁前にふさりと膨らんだお尻尾が出ていての、軽やかにしたぱた揺れており。
どうやらキツネの眷属であるらしき坊や、
ふわふかな頬をほんのりと赤く染め、
目の前のドングリの場をただただ見つめておったのだが。

 「ほれ、次。」

向かい合う男の大きい手が、自分の取り分を浚った後には、
真ん丸なくぬぎの実が、一粒だけころりと居残っており。
何にもなくなった訳じゃあないのに、
それを見やったおチビさん、
むむうと緋色の口許を尖らせる。

 「なんで? どしていっつも あぎょん勝つの?」

どうやらこれは、勝負ごとであったらしく、
最後の1個を取る側が負けになる“数遊び”の一種かと。
そしてそして、
先程から何度も挑戦しているものの、
小さな仔ギツネさん、
一度たりとも勝てないままであるらしく。
幼い和子の愛らしいお顔が、
頬ふくらませての尚のこと真ん丸になった先、
対戦相手だった、あぎょんと呼ばれた男衆はといや、

 「それはな、俺様が強いからだ。」

えっへんと鼻高々に…大人げなくも大威張りの態を見せるのは、
こちら様もまた“人ならぬ”御方、
この辺りの土地を治め、畿内を統べる蛇神様、
阿含という名の大妖であらせられ。
もしかしたらば 人には仇なす“厄神”なのかも知れず、
だとすれば、
天帝に仕える眷属の仔ギツネさんには、微妙に天敵かも知れぬのに。
どういう相性なのだろか、
出会いもなかなかに剣呑だったにも関わらず、

 「む〜〜〜、あぎょん、じゅるしてない?」
 「じゅる? ああ、ズルか。そんなもんしてねぇよ。」

この場でこそ、負けが込んでの不機嫌になっているものの、
冬場は眠ってしまうので遊べないはずの蛇神様、
だがだが、冬の間も起きてるお仲間が出来たのでと、
今年は起きてることにしたと聞いた途端、
わぁいとはしゃいでの、それまで以上に毎日、
この裏山まで伸してくるよになった くうちゃんだったりし、

 「もちっと頭を使えや。」
 「む〜〜〜。」

でもでも、せーなには時々勝ってゆの。
おとと様にも勝てるとき、あんのよ?
なのに、どーしてあぎょんには勝てないかなぁと。
これもまた一丁前に、寸の足らない腕を胸の前で組んで見せ、
う〜むふ〜むと考え込むのがまた可愛い。
何とも微笑ましいものよと、
少し厚手の作務衣の懐ろ、
行儀悪くも袖から引っ込めてて手をそこから覗かせ、
大ぶりの手で顎先を摘まんでいた阿含だったが、

 「…ちっと待て。蜥蜴野郎にも時々勝つってか?」
 「うん。」

せーなというのは、
彼が地上での居処にしている金髪の陰陽師の屋敷へ、
勉強のためと居候しているお弟子の少年のことだと判る。
まだ成人前らしい幼く素直な和子であり、
もしかしたらば故意に負けてやっているのかななんて、
彼に関しては思わなくもなかった阿含だったのだけれど。
坊やが“おとと様”と呼ぶ対象、
陰陽師殿の式神にして、
蜥蜴一門を統べる格の、そちら様も一応は大妖、
葉柱というののことだというの、
きっちり把握している阿含にしてみれば、

 “あれが、
  子供の顔立てて わざと負けてやるような器用さを、
  持っとるとは思えんのだが。”

色んな意味から、色んな方向での、
反駁やら言い返しやらが飛んで来そうな感慨を、
縄のように綯った髪の房がまとわりつく首元、
こりこりと掻きつつ巡らせておれば、

 「あぎょん、もっかい。もっかい しゅるのっ。」
 「おお。俺は構わんが。」

それぞれのお膝回りに取ってあったドングリさん。
二人の間の“場”へと戻す小さなお手々へ、
さささっと小さな影がよぎる。
近寄りたいけど、怖いのもいるし。
でもでも、あんなたくさんの御馳走を前にしちゃあ、
そわそわと落ち着けない…とする、
お尻尾仲間の小さな存在。
そりゃあ素早く駆け寄って来て、1つだけを掠め取ってのパッと逃げたのが、

 「あ・リスさん。」

ありゃりゃ、あんな逃げなくてもいいのにと。
怖がられているのにも気づかずにつぶやいたおチビさんへ、
苦笑をしつつも蛇様が助言。

 「腹ァ減らしてなくとも…って時期だろうからな。」

野ネズミやウサギ、リスなんぞは冬籠もりせんらしいからの。
そーなの?
ああ、それで冬場の餌をな、今から たんと溜め込んでおくのよ。

 「此処にこんなにあるもんだから、
  気になって気になってしょうがないのだろ。」
 「ありゃりゃ。」

そか、これってリスさんのご飯だったかと。
小さなお指に摘まんだドングリ。
でもね、あのね、ニヤニヤ笑ってるお兄さんに、
一度も勝てないのはやっぱり収まらないようで、

 「もっかい。」
 「んん?」
 「もっかいしたら、リスさんに あげゆ。」

だからもう一度勝負だということならしくって。
小さな仔ギツネさん、むんと引き結んだお口も凛々しく、
下生えの上へ、きちんと四角く座り直して見せたけれど。
ちょこっと間を置き、
やっぱり“みゃ〜っ”と惨敗のお声を上げることとなる。
それまでリスさん、ちょこっと待っててあげてね?




  〜Fine〜  09.12.13.


  *冬眠しないあぎょんさんは、
   ますますのこと、
   くうちゃんの保父さんの座を確たるものにしてしまいそうで。
   影踏み鬼とか、木登りに変化(へんげ)の練習などなど、
   遊びながら色んなことを教えてもくれそう。
   そして、

   「〜〜〜〜〜。」
   「ほれ、お前は仕事があんだろが。」

   調伏の任へと出る蛭魔さんに引きずられ、
   後ろ髪引かれまくって出掛ける葉柱さんだったりする冬なワケですね。

   「大体、これまでだって
    仕事に出るときゃ留守番させてたろうがよ。」
   「セナ坊といるのと、あの野郎といるのとじゃあ、
    心配の度合いが違うんだよっ。」
   「そうなんですか?」

   ボクよりよっぽど頼りになりそうなのに…と、
   こちらさんはこちらさんで、何か誤解を深めてそうですが。


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